【レポート】社会的包摂の政治学 : 自立と承認をめぐる政治対抗

社会的包摂の政治学:自立と承認をめぐる政治的対抗

社会的包摂の政治学: 自立と承認をめぐる政治対抗

宮本太郎氏による「社会的包摂の政治学: 自立と承認をめぐる政治対抗」は、社会的包摂という極めて多義的な概念についてその実態を、政治的観点を交えて明らかにしていく内容となっている。講読部分では、自ら様々な政策論議に関わってきた筆者により、社会的包摂の歴史と現状について日本と海外の比較分析がなされている。その後、社会的包摂という概念の曖昧さについて述べられ、曖昧であるがゆえに生じる問題点についても議論が展開されている。

今回の記事では、本書の序章部分の要約を行い、その後問題提起をする。提示した問題点について見解も交えながら議論を展開し、最後に全体のまとめとして結論を述べる。

  • 要約

2009年に「社会への迎え入れ」いわば、ソーシインクルージョンを図るべきであるという点が提言されてから現代に至るまで、生活困窮者に対する様々な政策が掲げられてきた。社会的包摂の概念に基づく政策が増えていったのに加え、ヨーロッパではこれを批判する議論さえも増えているという点から、一見、社会的包摂は主流化したとも見てとれる。しかし、筆者は「言葉の曖昧さ」と「定着」という2つの課題点を理由に、「主流化したとは言い切れない」というスタンスで議論を進める。

次に筆者は歴史的背景について、フランスとイギリスを比較し、日本の立ち位置に関しても触れる。フランスでは、排除を社会的連帯の再構築の問題として捉えられており、その社会的連帯の再建を図るために包摂が描かれている。一方で、イギリスでは生活困窮層をいかに労働市場に結びつけ経済的に自立させるのかという点を重要視しており、アングロサクソン諸国においては労働市場への参加が促されている。なお、アングロサクソン諸国とは英国、アメリカ、カナダ、ニュージーランド、オーストラリアを指す(国土交通省国土交通政策研究所, 2001)。これらに対し日本では「企業的包摂」は実現できていたものの、社会保障の基盤が弱かった。ここでいう企業的包摂とは、「行政・官僚制の業界保護のもとで、一定の規模を備えた企業が男性稼ぎ主の生活保障を行う」ことを指す(宮本, 2013)。

国や地域によって捉え方や対応は異なるものの、各国で社会的包摂が政策の基盤となっていることは事実としてある。その理由として筆者は社会構造経済政策世論動向の三つの背景を挙げている。これまで、保守主義、経済的自由主義、社会民主主義の立場間で福祉国家を縮小するのか拡大するのかの対立が起きてきたが、「社会的包摂」という概念が用いられることにより、三つの方向性がある程度まとまりを見せた。これは、社会的包摂という言葉が指すものが曖昧であるからこその結果である。しかし、その一方で「包摂」の具体的なあり方が問われるきっかけともなっている。

また、社会的包摂は幅広い意味で使用されるが、どのような制度のもとで構成されているかによってアプローチが大きく異なるとされており、筆者は例として脱商品化の水準、支援サービスのあり方、補完型所得保障のあり方、そして雇用機会の提供を四つの分岐点を挙げている。また、これらの4つの分岐点でどう対応するかによって、その後の社会的包摂がワークフェア、アクティベーション、ベーシックインカムの三つに分かれると主張している。ワークフェアは、働くことを条件に公的扶助を行うものである(カオナビ, 2018)。一方で、アクティベーションはケアや教育などでサポートを行い、社会参加を促すものであり、「労働」を条件に公的扶助が行われるワークフェアとは「働くことが必須条件となる」という点で異なる(カオナビ, 2018)。これらに対しベーシックインカムは政府が国民の生活を最低限保障するために条件を問わず一律で現金を給付する仕組みのことを指す(労働問題相談所, 2018)。

最後に筆者は、社会的包摂が政策として定着するにあたって二つの懸念点を述べている。一つ目に、政治を支える基盤が流動化し、社会的排除の問題が深刻化する中で、社会的包摂などの目標を追求し安定的な支持基盤を構築するよりも、短期的な支持の拡大を優先しポピュリズム的な傾向に走ってしまっていることである。ポピュリズムとは、大衆を重要視し、その支持を求める政治姿勢のことを指す(朝日新聞, 2015)。二つ目に、各地域で社会的包摂を実現するにあたって、統治の形を根本から変える必要性があるが、その複雑さが懸念されている。筆者の具体的な案としては、自治体が各地域に応じて固有の包摂政策を作り上げていくことが鍵となり、それが雇用だけでなく、家族ケアや教育、地域活動などの場をも提供していくことに繋がるとしている。また、このアクティベーション型の包摂政策は、持続可能性の高いものとして期待されている。

  • 問題の提起

「雇用と家族の揺らぎ」(p.6)「そしてだからこそ包摂の具体的なあり方が問われているのである」(p.7)

「地方自治体がそれぞれの地域に応じて、社会的企業などを組み込んだ固有の包摂政策を形成していくことが求められている」(p.22)

以上に抜粋した部分から、主に筆者は二つの問題点を主張している。一つ目に、社会のあり方が変わっている現状を見極めなければ、「社会的包摂」に関する政策を実施するにしても、「誰に対するものなのか」という部分が常に変わる可能性があるため政策と対象にズレが生じてしまうという点である。二つ目に、「社会的包摂」が指すものが曖昧すぎるため、具体的なあり方が問われ続けているという点だ。それに加え、三つ目の文章からもわかるように、求められている「具体的あり方」の答えが一つではないという点も課題となっている。

  • 議論

平成30年6月末時点での在留外国人数は263万7,251人に上り、前年末と比較して7万5,403人増加している(法務省調べ)。これは過去最多である。また、厚労省の労働力調査によると、女性の労働人口は2016年時点で2883万人と、前年に比べ41万人増加している。結果として労働力人口総数に占める女性の割合は43.4%と、こちらも年々上昇してきている。このように、社会構造そのものが変わってきている以上、筆者が述べている通り、社会的包摂を実施するにあたっての理想的な形自体も年々更新されている。その為、社会的包摂に関する政策について議論する際には、本文にもあったように「短期的な支持」を求めるのではなく、数年後の社会がどう変化しているかという長期的なビジョンをもった上で、社会的包摂の議論を展開する必要がある。

次に社会的包摂という言葉の曖昧さについてだが、この言葉が曖昧であること自体は大きな問題ではないのではないだろうか。筆者の主張にもあった通り、各地域に応じて固有の包摂政策が求められているからである。社会的包摂が曖昧ではなく一義的な概念であった場合、地域によっては全くマッチしない政策が行われることになりかねない。とはいえ、政策を実施する上で何の定義も定められていないのは地域全体だけでなくそこに住む市民の不安要素に繋がりかねない。そこで、地域ごとに社会的包摂の定義や目指す場所を設定し、それを明確にするのはするべきである。曖昧な言葉を定義づけるのだが、国単位で統一するのではなく、地域ごとに定義ややり方を定めるというアプローチをとる。そうすることによって、現状のゴールがはっきりと定めていない状況から抜け出せると同時に、筆者の提案通り各地方自治体が、その地に合わせたゴールを定めやすくなるのではないだろうか。

  • まとめ

これまでの文献でも述べられていたが、社会的包摂を実現し定着させるにあたって、ニーズの多様化に着目することが鍵となってくることがわかった。(加山, 2014)でもあったように、ニーズが複合的であって公的サービスの届かない人が存在するという点は、今回、宮本氏が主張していたように、地域固有の政策を実施することによって多少は改善されるのではないではないだろうか。更に、社会が続いていく以上、社会のあり方も変化し続けるため、社会的排除の解決ないし社会的包摂の実現は一度解決されて終わりが来るものではないということを再確認できた。だからこそ、筆者の言葉通り「持続可能性」の高い策が必要とされているのであろう。

【参考資料】

朝日新聞 (2015)「朝日新聞掲載『キーワード』」( https://kotobank.jp/word/ポピュリズム-169867 )[2018.11.13 access].

カオナビ人事用語集 (2018)「ワークフェアとは?ワークフェアの問題点とアクティベーションの違い」(https://www.kaonavi.jp/dictionary/workfare/ )[2018.11.13 access].

厚生労働省「平成28年版働く女性の実情」(https://www.mhlw.go.jp/bunya/koyoukintou/josei-jitsujo/16.html )[2018.11.13 access].

法務省「平成30年6月末現在における在留外国人数について(速報値)」(http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyuukokukanri04_00076.html )[2018.11.13 access].

マイナビニュース「労働力人口は?失業者数は?厚労省が『働く女性の実情』公開」(https://news.mynavi.jp/article/20170706-mhlw/) [2018.11.13 access].

労働問題相談所「ベーシックインカムって何?メリットとデメリットをわかりやすく」 (2018) (http://労働問題相談.com/column/what-basic-income/ )[2018.11.13 access].

【参考文献】

加山弾「地域におけるソーシャル・エクスクルージョン」有斐閣 (2014)

国土交通省国土交通政策研究所「NPMの展開及びアングロ・サクソン諸国における政策評価制度の最新状況に関する研究」国土交通政策研究第7号 (2001)

宮本太郎「社会的包摂の政治学: 自立と承認をめぐる政治対抗」ミネルヴァ書房(2013)

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