【レポート】米国による民主主義外交の自己否定

米国による民主主義外交の否定

米国による民主主義外交の自己否定

-冷戦期における米国の対中南米政策-

要約

 第二次世界大戦が終わり冷戦期へと移行し、自由主義を掲げる米国と共産主義を掲げるソ連が対立を顕在化させた。その冷戦期において両国は自身のイデオロギーを広め、相反するイデオロギーの拡散を阻止しようと外国への介入を多く行った。米国は、自由、資本主義、民主主義などの自由主義的価値観を広めるという名の元に「自由の帝国」を作り上げた[1]

 しかしながら、米国が冷戦期に行った対中南米政策はその米国の主義主張に矛盾しているのではないか。なぜなら、米国は冷戦期次々とラテンアメリカで起きた革命に対し、それがたとえ民主的政権によるものであったとしても米国の権益を阻害するものであれば軍事介入を行い革命を阻止しようとしたからである[2]。この米国の行為は自身のイデオロギーである民主主義を否定することになる。本レポートでは、その米国の対中南米政策の矛盾を考察することによって、冷戦期における米国のイデオロギー政策の失敗を指摘する。

米国が築こうとした「自由の帝国」

 米国は20世紀に入り外国への介入を繰り返してきた。フィリピン、中国、ベトナム、アフガニスタンなどその例は数え切れない。それらの外国への介入は米国の、自由、民主主義、資本主義経済などを広めるという名の元で正当化されて行われてきた。そのため米国はそれらのイデオロギーをどのように政策に落とし込むかが非常に問われていた[3]。その重要性が特に問われたのが冷戦期だ。

 第二次世界大戦後、世界の覇権を巡って米国とソ連はイデオロギーにおいて激しく対立した。ソ連はコミンテルンを中心として共産主義を普及し、第三世界へ介入した[4]。それに対し、自由主義というイデオロギーを普及し共産主義の拡大を阻止しようと試みたのが米国の政策であった。冷戦はまさに米国とソ連によるイデオロギー政策の衝突と言ってよい。

 しかしながら、米国の対中南米政策にはそのイデオロギー政策に矛盾した行動が見られる。たとえ「民主主義」を掲げたとしても、反米政権に対しては容赦なく米国は軍事的介入を行った。以下ではその具体的事例について考察する。

冷戦期における米国の対中南米政策の矛盾

 米国が冷戦期に外国へ数多くの軍事的介入を行った口実がイデオロギーによるものであったと仮定して、果たしてその政策に一貫性はあったのだろうか。冷戦期における米国の対中南米カリブ政策ではその一貫性を否定する事例が見られる。

 その好例が1954年の米国によるグアテマラへの介入だ[5]。当時のグアテマラの大統領であるアルベンスは民主的手続きによって選ばれていた。しかしながら、アルベンス政権が次第に左傾化し農地改革によって、米国にとって非常に大きなグアテマラでの収入源であったユナイテッド・フルーツ社の土地が接収されると、米国はアルベンス政権への不信感を高めCIAの働きかけによりアルベンス打倒クーデターを起こさせた[6]。すなわち、米国の政策決定の軸はイデオロギーによるものでなく、権益や国益といった経済的理由によるものであった[7]。アルベンスが左傾化し共産主義に近づいていったことを懸念したというイデオロギー面の理由も否定できないが、ユナイテッド・フルーツ社への影響からクーデター工作に踏み切ったことを鑑みるにその意思決定の最も重要であった要因は経済的要因であったと言える。

 また、チリにおけるピノチェト率いる軍事クーデターへの支援も米国の矛盾した政策の例の一つだ[8]。1970年に成立したアジェンデ政権は議会制度に基づく民主的手続きを取った。しかしながら、アジェンデが社会主義国家建築を目指し共産国へ接近したことを受け、米国はピノチェト率いる軍事クーデターを支援した。さらに、ピノチェトは独裁政権を樹立した後人権侵害を繰り返したが、米国はそれに対し寛容な姿勢を貫いた。米国は冷戦において「民主主義」というイデオロギーの促進を建前として政策を決定してきたが、この例が示すように実際には人権侵害を行う独裁政権を支持していた。

 このように、冷戦期における米国の対中南米政策では民主主義外交を自ら否定するような政策が見られる。この民主主義外交の自己否定の意義は、冷戦期における米国の外交政策の非一貫性である。すなわち、米国の自由主義的イデオロギーを介入の口実として落とし込めていたはずだったが、対中南米政策ではそれに失敗している。つまり、冷戦期における米国の介入政策は一概にイデオロギー波及のためだということはできず、権益や国益といった要因が、特に中南米においては絡んでいた、ということを確認し本記事の終わりとしたい。

【参考文献

<邦語文献>

  • 上村直樹「米国の冷戦外交とラテンアメリカの革命 -ボリビア革命とグァテマラ革命の比較-」『アメリカ研究』26号(1992)
  • 杉山知子「アメリカの民主主義外交と国益: 冷戦期における対ラテンアメリカ政策の観点から」『東海大学政治経済学部紀要』38号(2006)

<英語文献>

  • Odd Arne Westad, “The Global Cold War,” Cambridge University Press (2005).

[1] Odd Arne Westad, “The Global Cold War,” Cambridge University Press (2005), pp. 8-38.

[2] Odd Arne Westad, pp. 110-157.

[3] Odd Arne Westad, p.9.

[4] Odd Arne Westad, pp. 49-56.

[5] 杉山知子、23-25ページ。

[6] 上村直樹、95-97 ページ。

[7] Odd Arne Westad, p.146.

[8] 杉山知子、23-25ページ。

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