【レポート】認知症患者の鉄道死亡事故:遺族が賠償金を請求されるのか

「認知症の方の列車死亡事故」遺族が賠償金請求されるのか?

 

はじめに

2007年、認知症患者の男性がJR東海の電車にはねられて死亡し、JR東海は家族に損害賠償として約720万円の支払いを求めた。結果的に最高裁は「家族に賠償責任はない」との判決を下した

国土交通省のデータによると、国内の鉄道自殺件数は毎年500件から600件の間で推移している。リーマンショックの翌年である2009年には677件もの鉄道自殺が発生し、これは毎日1人以上が自殺している計算になる。このように、近年、多くの鉄道事故が発生している現状や、今後日本が超高齢化社会を迎えることもあり、この裁判は大きな注目を浴びた。今回は、最高裁判決の意義について述べる。

最高裁判決の意義

JR東海が提訴した背景には民法714条の存在がある。民法714条は「責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う」つまり重度の認知症患者のように責任能力のない人物の賠償責任を監督義務者が負う、と定めている。

これを踏まえると、JR東海が提訴することに問題はない。では、なぜこの判決がこれほどまでに注目を浴びたか? それは「認知症患者が引き起こしてしまった事故について遺族に損害賠償を求める」ことが社会的に凶暴と感じられるからであろう。「民法が定めている内容と世間の価値観の間にあるズレ」が今回の裁判の焦点だったのではないだろうか。遺族側は「妻が85歳で要介護1の認定を受けていたこと」と「長男は約20年同居していなかったこと」をJR東海に対し主張した。これからの日本社会を見据えると、超高齢化社会を迎える中で似通った問題が多く発生すると予想される。今後に備え、このようなケースに対して一定の見解を定める必要がある

一審の名古屋地裁では遺族である妻と長男に対して720万円全額の支払いが命じられ、二審の名古屋高裁は妻にのみ損害賠償の支払いを命じた。しかし、最高裁は「家族は監督義務者に当たらない」との判断を下した。最高裁のみが、妻と長男を監督義務者と認めなかった。認知症患者のもたらした損害に対し、最高裁が「認知症の家族を持つ家族側の主張を認めた」点が今回の最高裁判決の意義ではないだろうか。民法において規定されている通りの判決ではなく、新たな視点から判決を下した。今回の判決は、今後の裁判に大きな影響を与えるものとなる。

最高裁判決の問題点

最高裁が今回の判決で遺族側を支持したことで、日本社会に一定の方向性を示した一方、そこから生じる問題もある。それは、「介護を担う人の年齢や生活状況によって、賠償責任が認められる余地も残した」という判決文により「賠償責任が認められるケースもある」と社会全体に示すことで、介護そのものにネガティブなイメージを与えてしまう恐れがある、という点である。現時点でも、2025年には約38万人の介護人材不足が予測されている。それにもかかわらず、今回の件で介護に関して引き受けを拒否する傾向が強まれば重大な問題となる。また「事実上の監督者は誰になるのか?」という点に関しては、基準の取り決めが非常に困難であるため、類似ケースが発生した場合に同様の議論を繰り返さなければならない可能性がある。したがって、民法を一から見直し、現代に沿った新たな基準を設けることが必要となるかもしれない。

【参考文献】

  • 国土交通省『運転事故件数(事業者別)平成24年度』{http://www.mlit.go.jp/common/001023321.pdf}(2018/4/28参照)
  • Business Journal「鉄道の人身事故、関東で増加、年間600件で毎日1人以上が自殺〜警察は情報開示拒否」{http://biz-journal.jp/2013/12/post_3598.html(2018/4/28参照)
  • 「福祉・介護人材確保対策等について」厚生労働省{http://www.mhlw.go.jp/topics/2016/01/dl/tp0115-1-13-02p.pdf#search=’介護人材の不足’}(2018/4/28参照)

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