【レポート】受刑者の人権

受刑者の人権

 刑務所の中で「人権」はどの様に保証されているのか、今回は本記事を通して「受刑者の人権」について考察していく。

 現在、日本では改めて受刑者や刑務所のあり方について議論する時がきている。地下鉄サリン事件を筆頭に凶悪犯罪が起きて、厳罰化を進める動きが盛んになってきた。アメリカでも1980年代にコカインが流行り、そして、殺人等の凶悪犯罪をメディアが取り上げ、厳罰化の方向に進んできた。しかし、本当に厳罰化を進める事が世の中の為に有意義なものかは分からない。私たちの未来とってベストな選択は何なのか。これを「受刑者の人権」という点から日本だけでなく、海外の事例も取り入れながら考察する。

 「国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない」と憲法11条に記載されている。これは、受刑者にも憲法があり、人権がある事を示す。受刑者は、犯罪を犯して、それに価する形罰としての自由は制限されるが、それ以外の点は一般の国民と同様の扱いを受ける必要があり、基本的人権の享有を妨げられる事はあってはならない。また、1948年に発表された世界人権宣言で「何人も、拷問又は残虐な、非人道的な若くは屈辱的な取扱い若くは刑罰を受けることはない」とする精神は、この世界に住む全ての人に価し、全ての国が基準として捉える必要がある。しかし、日本のある刑務所で、入所時での指示で、刑務官が「ここでは刑務官が白と言えば、たとえ黒でも白だ。そのことをよく覚えておけ」(注1)と頭ごしに言われたと元受刑者は述べている。また、旭川刑務所で起こった厳正独居事件というものがある。原告は1979年に起こした罪で無期懲役に処せられた。その後、約13年にわたって厳正独居に付されていた。厳正独居は受刑者の間では一種の「懲罰」として認識されており、その独房は「拷問部屋」と呼ばれている。この受刑者が長期にわたり厳正独居に入れられた実態は、明らかに国際法に違反している。日本が批准している市民的・政治的権利に関する国際規約第7条で「何人も、拷問又は残虐な、非人道的な若しくは品位を傷つける取扱い若しくは刑罰を受けない」としている。厳正独居に約13年も収容させることは明らかに同規約に違反しており、国連被拘禁者処遇最低基準(第31、32)、国連被拘禁者保護原則(原則6)、市民的及び政治的権利に関する国際規約(7条、8条)にも違反している。日本の中で、受刑者の人権が不当な扱いを受けている可能性は否めない。受刑者の人権が刑務所の中で無視されてしまう実態が分かり、密閉された空間での人権侵害問題は、障害者施設だけではない。しかし、刑務所の場合、最も重要なのは受刑者の社会的復帰の為や治安の向上に繋がっているかではないだろうか。

 法務省が発表した「平成28年版 犯罪白書」によると、刑務犯の検挙人数は23万9355人で、3年連続で戦後最少を更新した。このうち再犯者数は11万4944人であった。これは前年度に比べると3千人以上減った事になるが、検挙人数に占める割合でみると、過去最高の48%であった。受刑者の高齢化も進んでおり、高齢者の再入者の割合は全体よりも高く、69.9%であった。今の日本では受刑者の人権が乱暴な扱いを受ける可能性がある上に、再犯率も高く、刑務所改革が必要だとこれらの事実から顕著に表れている。厳罰化を推進する流れにある中で、受刑者を厳しく懲らしめる事が社会にとって、私たち国民にとってなんら為になっていない事は明確。厳罰化と治安の向上がイコールの関係ではない事を私たちは理解しなければならない。

 国連は、今まで数多くの人権や基本的人権を保護する為の文書を作成してきた。これは、刑事施設に収容された人を含む全ての人間に当てはまる。厳罰化の流れに日本や世界はあるが「被収容者に対する外部世界の接触のきわめて厳しい制限と、その生活のあらゆる面での厳格な統制との結合は、被収容者の有する多くの人権を侵害するものである。なかでも被収容者がプライバシーの完全な欠如の下にあることは特に問題である」(注2)と専門家の指摘を受ける時代にある。国連が行ってきた文書の適用は、大多数の国においてきわめて不十分である。受刑者の人権が不当な扱いを受けている例が挙げられる中で、ノルウェーやフィンランドでは、囚人に対してとても寛容な刑務所が設置されている。ノルウェーのハンデン刑務所ではスポーツ施設が充実してあり、囚人たちの部屋にはテレビがあり、ゲームが置いてあり、とても囚人たちに寛容である。刑期を数年過ごし、刑務官の信頼を得た者は、休暇制度の利用が可能となり、故郷に外出する事までも許される。受刑者の社会的更生に重きを置いた、日本と真逆のスタイルを推進するノルウェーの再犯率は約20%である。この数字は再犯率48%である日本の半分以下だ。しかし、ノルウェーでも以前は厳罰化の流れが起き、少年刑務所を隔離するようになった歴史がある。この結果、ノルウェーの少年刑務所の再犯率が90%になってしまった。この事実を踏まえた上で大規模な刑務所改革が起き、現在の刑務所のスタイルへとノルウェーは変わった。また、自国の治安の向上に成功した。受刑者の人権が尊重され、治安の向上に繋がる教育を可能としているノルウェーのスタイルに、日本や全世界は目を向ける必要がある。

 世界的に犯罪者への刑罰をより厳しくする厳罰化の流れが加速し、受刑者の数が増え、「囚人爆破」と呼ばれる世界現象が起きている。アメリカでは「スリーストライク法」と呼ばれる凶悪犯罪でなくても、犯罪を3度繰り返すと厳罰に処すといった内容の法律が厳罰化の流れの中で導入された。結果、アメリカでは国民の100人に1人が受刑者という恐ろしい結果になっている。受刑者が増えている事によって刑務所の環境が悪化、囚人爆発や財政難に繋がって、社会教育が出来なくなっている刑務所が全世界に数多く存在している。刑務所の環境が悪化する事によって、受刑者たちの人権が粗末に扱われ事にも繋がる。また、数多くの実例が全世界で報告されている。更生するはずの施設が、悪い教育の学校になってしまっては何の意味もない。

 厳罰化が進む主な要因は、世間の流れにあるのではないだろうか。厳罰化かつ、受刑者の人権が不当に扱われていると指摘を受ける状況にあるが、世間がこれをどう捉えるかが非常に重要である。メディアを通して事件を見た時に、多くの人は被害者視点に立つことが多い。被害者視点から見ると、厳罰化を推奨し、加害者に厳しい刑罰を与えることを望むのは当然である。親しい身近な人を傷つけられた者の無念は計り知れない。捕まった犯人のこれからの社会的更生を率先して考える人など、そうはいないだろう。しかし、世間が本当に受刑者の社会的更生を望むのであれば、単に厳罰化に重きを置くのではなく、ノルウェーの様に受刑者が出所した後に社会に適合出来る様に、刑務所の中を社会での生活に近いスタイルを取る必要がある。「受刑者を厳しく懲らしめる事を重視するのか、受刑者の社会的更生を重視するのか」このどちらを推奨するのかを、まずは決めなくてはならない。そして、本来の刑務所の目的はあくまでも「受刑者の改善・更生である」と頭に入れて、日本が進む方向性を国民含んだ全体で決めていく必要がある。

 刑務所改革が必要な事は明確であり、受刑者の人権確保に焦点を当てることもも必要である。「日本の刑事施設においては、国際人権法違反が現在も日常的に起こっており、これを正すために変革がなされなければならない」(注3)と国際的な人権監視団体から指摘される様に、受刑者をただ懲らしめるだけの施設であるならば、刑務所の存在意義が無くなってしまう。刑務所は、受刑者を社会的更生の為に教育する施設であり、刑務所の改革を行っていく上で、まずは日本が拘束される条約や国際基準に適合していく必要がある。その為にも、刑務所や刑事施設に関する新しい法律を策定する事が日本の急務である。この法律は、受刑者が義務や権利を持つといったものが前提。日本は世界でみられる様な、刑務所内での殺し合いや派手な抗争はみられない。それゆえに、上記で述べた問題解決を行う事で、刑務所の本来あるべき姿により近づく事が可能。過剰収容によって、職員の負担が増えている問題も日本では出てきている。しかし、最終的に、日本の刑務所が受刑者の真の社会的更生が可能となることを期待する。これを達成する為に、まずは「人を人として扱う」ことがスタート地点になるのではないだろうか。塀の中にいる人であっても、人を人として捉えることが刑務所改革の一歩目になる。

 【注】

  • ①菊田幸一『受刑者の人権と法的地位』1996年発表論文 54頁。 https://m-repo.lib.meiji.ac.jp/dspace/bitstream/10291/1406/1/horitsuronso_68_3-4-5_41.pdf#search=%27受刑者+人権侵害%27
  • ②ヒューマン・ライツ・ウォッチ『監獄における人権/日本』大学図書 1995年出版 73頁。
  • ③ヒューマン・ライツ・ウォッチ『監獄における人権/日本』大学図書 1995年出版 81頁。

 【参考文献】

  • 菊田幸一『受刑者の人権と法的地位』1996年発表論文 https://m-repo.lib.meiji.ac.jp/dspace/bitstream/10291/1406/1/horitsuronso_68_3-4-5_41.pdf#search=%27受刑者+人権侵害%27
  • 菊田幸一『受刑者の法的権利』三省堂(2016)
  • 小林昭一『監獄と人権』日本評論社(1977)
  • 沢登文治『刑務所改革 社会的コストの視点から』集英社(2015)
  • ヒューマン・ライツ・ウォッチ『監獄における人権/日本』大学図書(1995)
  • 『平成28年版 犯罪白書 第1節 再犯・再非行の概況』法務省http://hakusyo1.moj.go.jp/jp/63/nfm/images/full/h5-1-1-01.jpg

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