【レポート】メキシコ教育:日本と比較して

メキシコ教育-日本と比較して-

導入

 今回の記事では、メキシコという収入が不平等かつ教育の質とアクセスが悪い国と、日本という収入格差があまりなく教育の質もアクセスも良い国を比較することによって、メキシコ教育について考察する。両国の教育の違いを可視化できるよう、リサーチ手法としてはデータ収集によるグラフ化を取る。

日本とメキシコの教育格差

 左上のグラフは1990年から2015年までの日本とメキシコの教育在籍平均年数をプロットしている。グラフは国連人間開発レポートのデータより作成している[1]。1990年メキシコの平均年数は約6年で、初等教育を受けるのにとどまっていたことがわかる。一方、日本の1990年の平均年数は約10年であり高等教育まで教育が進んでいたことがうかがえる。2015年のデータでは、メキシコの平均年数は8年、日本は約12年となっている。両国ともに教育の成長が見て取れるが、メキシコは依然として中等教育にとどまっている一方で日本では高等教育を卒業するにまで至っている。明らかに教育発達レベルは日本の方が高いと言える。興味深い点は、Székely, Mと Mendoza, Pのペーパーによるアメリカとメキシコの比較では教育在籍平均年数の差は年が経つごとに縮まってきていた[2]。一方、日本とメキシコの差は左上のグラフからわかるように縮まっていない。日本の教育水準は1990年の時点ではアメリカのような先進国レベルに達していたわけではなく、直近20年間で教育水準を上げてきたことが読み取れる。また、違う見方をすればメキシコの教育水準は全体的に向上しているとも言える。教育水準は依然として低いものの、改善は近年見られている。

 右上のグラフは、日本とメキシコのジニ係数を示している。ジニ係数は収入の不平等さを測る指標だ。グラフは世界銀行のデータから作成した[3]。グラフは、メキシコの収入の不平等レベルが日本よりも明らかに高いことを示している。

 下2つのグラフは、PISA[4]国際テストの数学と読解のスコアを示していて、世界平均、日本、メキシコの2003年、2009年、2015年のデータがプロットされてある。グラフはOECD統計のデータより作成している[5]。PISA国際テストは教育水準を測るためによく使われるデータであるが、見ての通り日本は世界平均を超えている一方で、メキシコは世界平均からかなりの遅れをとっている。

 このように、メキシコは教育水準が低く、教育在籍年数も低く、収入格差が大きい。一方で日本は教育水準は世界平均よりも高く、収入格差もあまり大きくない。

日本とメキシコの私立教育への支出

  次に、日本とメキシコの私立教育の違いについて考察する。

 上のグラフは日本とメキシコの私立学校に行く生徒の割合を小学校、中学校、高校、大学以上と示している。グラフは2015年のOECD統計データより作成している[6]。まず、私立小学校に行く割合はメキシコが8.8%で、日本は1.2%である。日本をはじめとする先進国では私立小学校にいく生徒の割合は低い傾向にある。なぜなら、先進国では公立小学校の質とアクセスが充実していて私立小学校にいく必要がないからだ。アメリカでは8.3%とやや高い割合だが、アメリカには多様な宗教が混在する中で宗教的な理由で私立学校に通う生徒が一定数いることが起因している。一方、メキシコも8.8%と日本に比べて高い割合だ。メキシコは国民の9割以上がカトリックの国であり、宗教上の理由ではない。この数値は公立小学校の教育の質とアクセスが悪いことを反映していると考えられる。すなわち、メキシコの富裕層は公立小学校の教育の不十分さから私立小学校に子供を通わせる傾向にあるということだ。日本における富裕層の割合はメキシコよりも多いが、私立小学校に行く割合が低いということは日本では私立小学校に通う必要がないほど公立小学校の教育への信頼が厚いということがうかがえる。

 日本とメキシコに大きな違いが現れるのは高等教育におけるステージだ。私立高校に行く生徒の割合は日本は32.4%で、メキシコは18.8%で倍近くの差がある。また、大学以降においては、日本は78.8%で、メキシコは29.6%と大きな差が開いている。これらの値は、日本とメキシコにおける私立大学の位置づけというものが大きく異なることが関係している。日本は大学全入時代と称されるように、望めば誰でも大学に入れるという教育システムとなっている。しかし、ここで注意すべき点は日本の国立大学には誰でも入れるわけではないということだ。日本の国立大学は各都道府県においてトップ大学というポジションであることが多い上、日本全体の中のトップ大学も国立大学である。そのため、全入時代である日本においてシェアを多く取るのは私立大学ということになる。そのため日本の数値が78.8とかなり高いと想定される。通常、日本の私立大学の学費は国立大学の2倍以上なので金銭的な理由が大きく起因すれば私立大学に行く生徒の割合はもっと低いはずだ。日本は所得格差があまりないために、金銭的な理由よりも国立大学に入るのが難しいという構造的な理由の方がこの78.8という数値を説明していると想像できる。

 その一方で、メキシコの29.6という数値は金銭的理由が起因している。メキシコにおける公立と私立大学との教育の質には非常に大きな乖離がある。これは私がメキシコに住んでいた経験からも明らかで、私立大学は充実したキャンパスの施設、高い教育を受けてきた教師、豊富な財力を持っている一方で、公立大学は限られた少ない財源の下で教育の質に限度がある。そのため私立大学に通えるなら通いたいという状況にあるものの、金銭的理由が私立大学進学を阻んでいる。メキシコはジニ係数にも表れている通り、収入格差が大きい。そのため、学費の高い私立大学に行くことができる家庭は限られている。そのため日本に比べると、私立大学へ行く生徒は大幅に低い。

 上のグラフは日本とメキシコにおける私立学校の学費のパーセントの内訳を示している。グラフはOECDの2015年の統計データより作成している[7]。このグラフにおいて、一番目立つのは、メキシコの私立大学における学費の割合がとても大きいということだ。すなわち、メキシコの私立大学の費用のスタイルはいわばアメリカ型で平均所得と比較すると法外な学費を要求しているということだ。それに比べれば、日本の私立大学は1年間で約120万円であり、アメリカの私立大学の300~600万の学費に比べるとかなり低い。このように、メキシコでは公立大学の教育の質が低いにもかかわらず、私立大学の法外な学費と所得格差によって限られた人しか私立大学へ進学できないという現状がデータから読み取れる。

所得格差の根源

 最後に、メキシコにおける教育格差がどのように労働市場に影響を与えているか検討する。

 上のグラフは、学歴と収入の関係を示している。高卒の25~64歳の人の平均収入を100と置いて、その推移をグラフが示している。日本のデータはOECD統計データベースにデータがなかったために、文部科学省の2010年のデータを用いた[8]。メキシコのデータは2015年のOECDの統計データを参照している[9]

 グラフから読み取れるように、日本では例え学歴が低くても大卒の人と大きな格差がない収入を得ることができる。しかしながら、メキシコの格差は非常に大きい。中卒の人の平均収入は60であり、大卒の人は200である。教育を享受できているか否かで3倍以上の所得格差が生まれているということだ。

まとめ-提言-

 日本とメキシコのデータを比較してきたことによって、両国の差が浮き彫りになった。メキシコは絶対的に教育水準が低い、所得格差が大きいという国であることをまず確認した。その後、私立学校に進学する生徒の割合と私立学校の学費の内訳をみることで、メキシコにおいて私立大学へ進学するということがとてもハードルの高いものであるということがわかった。最後に、メキシコではその学歴格差というものが収入格差に直結しているということをデータから読み取った。

 以上を踏まえ、メキシコの教育に対して提言をするならば、私立大学へ進む障壁を軽減し、高い質の教育が受けられる生徒を増やすということ。具体的には、私立大学の学費を減らす、貧しい家庭の生徒を優遇して入試を行う、奨学金制度を充実させるなどが考えられる。法外な私立大学の学費を減らし、日本のように公立と私立大学の間に大きな学費の差がなくなれば、私立大学へのアクセスをもっとオープンにすることができるだろう。問題点としては、私立大学はあくまでもビジネスとして教育をやっていて、学費を減らすにはコストが大きすぎることが考えられる。貧しい家庭への優遇制度や奨学金ならば、私立大学へのコストの影響を抑えながらアクセスを増やせるのではないだろうか。具体的な施策の検討については、今後記事にしていく。

【参考文献】

  • Psacharopoulos, G., & Anthony,H,P. 2004. “Returns to Investment in Education: A Further Update.” Education Economics, vol.12, no.2.
  • Székely, M., & Mendoza, P. 2017. “Patterns, Trends and Policy Implications of Private Spending on Skills Development in Mexico and the United States.” Inter American Development Bank.
  • Ulrich Lachler. 1998. “Education and Earnings Inequality in Mexico.” World Bank.

【Web資料】


[1] United Nations Development Program Human Development Reports. http://hdr.undp.org/en/data 2018年1月26日閲覧。

[2] Székely, M., & Mendoza, P. 2017. “Patterns, Trends and Policy Implications of Private Spending on Skills Development in Mexico and the United States.” Inter American Development Bank, p.13.

[3] World Bank Development Research Group. https://data.worldbank.org/indicator/SI.POV.GINI 2018年1月26日閲覧。

[4] Program for International Student Assessment by the Organization of Economic Cooperation and Development (OECD).  

[5] OECD Statistics. http://stats.oecd.org 2018年1月26日閲覧。

[6] OECD Statistics. http://stats.oecd.org 2018年1月26日閲覧。

[7] OECD Statistics. http://stats.oecd.org 2018年1月26日閲覧。

[8] 文部科学省 平成21年度文部科学白書。http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/html/hpab200901/detail/1296547.htm 2018年1月26日閲覧。

[9] OECD Statistics. http://stats.oecd.org 2018年1月26日閲覧。

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